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第12回 松枯れ防除実践講座のご報告 青森県

当日のプログラム等はこちら

 

会場の様子

当センターでは、平成17年度より松枯れ防除事業に携わる都道府県の松枯れ防除担当者や、実際に現場で防除事業を行う松保護士や森林組合職員などを対象として、松枯れ被害対策にかかる適切な防除計画の策定と、適正な防除の推進に必要な技術・知識の習得を目的として、年に一回、全国輪番制で「松枯れ防除実践講座」を実施している。

 

特に本講座の開催のためには、都道府県の防除担当者の熱意はもちろんのこと、地域の国有林を所管する森林管理局や林業試験場のほか、隣接する大学関係者や地域の森林組合の協力なくして実現は困難である。また、松枯れ防除薬剤を取り扱う各種メーカーの全面的な協力も同様で、このように多様な主体が参加することも本講座の大きな特徴の一つとなっている。


本講座の受講により防除関係者の間で新たな人脈が築かれたり、事業発注者と受注者、あるいは薬剤メーカーと施工者の意見交換の場としても一定の効果をあげているほか、都道府県の松枯れ被害に対する取り組みの内外へのPR効果も、本講座の狙いとするところである。


12回目となる平成28年度は、9月8日(木)〜9日(金)の2日間の日程で、青森県弘前市にて林野庁、弘前大学、青森県、弘前市、全国森林組合連合会、青森県森林組合連合会等の後援により開催し、都道府県市町村の防除担当者のほか、全国の松保護士や樹木医、森林組合職員、有識者、学生など、総勢130名を超え、本講座始まって以来最も多くの皆様に参加いただいた。

 

報告の詳細はこちら(PDF)

 

以下は報告の抜粋

 

1日目 座学(弘前大学文京町地区キャンパス 農学生命科学部403講義室)

当センター事務局による開会の辞に続き、来賓として東北森林管理局計画保全部長の島内厚実氏、弘前大学農学部長の橋本勝氏、青森県農林水産部次長の高谷清孝氏よりご挨拶をいただいた。

 

開催初日より、青森県23名、弘前市19名の職員が参加され、松枯れ防除に対する並々ならぬ関心の高さや、なんとしても防除するといった断固たる決意が、会場全体に張り詰めている様子であった。

 

○青森県農林水産部林政課 課長代理 杉山 徹 氏

報告1青森県における松枯れの現状と課題について

 

青森県にて近年5例のマツ材線虫病被害が確認されていること、平成28年7月時点でその被害本数は68本にのぼること、その防除対策として防除帯の設置や特別予防監視区域の設定、ヘリコプター、デジタル航空写真、セスナ機、ドローン等などの手段を活用した監視体制の構築などについて説明された。


被害木の早期発見を主とする短期的な取組や、場所により広葉樹への樹種転換や抵抗性マツの植栽などの中長期的な取組はもちろん、何より各関係機関の担当者同士の情報共有の場と連携体制が重要であり、青森県や市職員をはじめとする行政側のマツ材線虫病に対する正しい理解のほか、地域住民を巻き込んで連携していくことが不可欠であることを強調された。

 

○林野庁研究指導課 課長補佐 大場隆也 氏

報告2「東北地方における松枯れの現状と北東北3県(被害先端地域)における防除の重要性について」

 

東北地方におけるマツ材線虫病とマツノマダラカミキリの分布について、1980年から2006年までの変遷をグラフや分布図を用いて説明された。

松枯れ被害に県境はなく、周辺の都道府県と連携して実施していくことの重要性を強調された。

 

○国立研究開発法人森林総合研究所東北支所 生物被害研究グループ長 中村克典 氏

講演1「マツ材線虫病の発生メカニズムと防除対策」


防除にあたっては、地域ごとのカミキリの活動時期を知ることが大前提であり、それにあわせて伐倒駆除や松林の伐採等のスケジュールを立てるべきであること、現場レベルでの各種防除法の厳格な運用や、戦略的防除の考え方に基づき、「守るべき」かつ「守ることのまだ可能な」松林に防除努力を集中させることなどを説明された。


特に青森県では、周辺地も含めた被害発生の警戒・監視体制と被害現場での伐倒駆除を徹底させることのほか、すでに各種の高精度な空中探査が進められているため、補完的な意味で直接目視で被害木を確認・報告する地上探査の重要性を強調された。

 

最後に、被害侵入の焦点とされている日本海沿岸の秋田県境では、引き続き重点的な警戒が必要であり、マツ材線虫病に県境等の区分けがないことから、マツ材線虫病の北上阻止という共通の目的達成のため、県境を越えた協力・連携体制の強化が必要であることを訴えられた。

 

○千葉大学名誉教授 本山直樹先生

講演2「防除の実施に関わらず、被害の沈静化に至らない実態について」

 

全国的な空中(薬剤)散布減少の要因は、マツ材線虫病の認識不足や、地域住民の稚拙な思い込みや防除薬剤の誤った理解によるものであること、そして、被害の沈静化に至らない実態について、その時々の膨大なデータに基づき解説された。


信頼に足るメディアが一部の学識経験者の意見のみを鵜呑みにした結果、時として途方もない誤解を広める装置として機能してしまう恐ろしさを訴えた。

 

松枯れ防除対策は、予防散布と伐倒駆除の両方が不可欠であり、防除事業の実施主体としては、科学的根拠のない健康被害の訴えや苦情には決して屈しないことはもちろん、地元住民の「地域の松を絶対に守る」といった強い熱意がなければなし得ないこと、松林の分布は行政単位でマツ林が分布しているわけではないので、所有者や行政主体が協力して、地域を越えた連携が必要であることを強調された。

 

○愛知県森林・林業技術センター 技術開発部森林機能グループ技師 中島寛文 氏

講演3「松林の再生計画地域の環境に適応した後継樹の育成と土壌菌根菌との関係について」

 

全国各地で開発されている抵抗性マツは、産地が異なるため、植えようとする地域に適さない場合があること、松林内における菌根菌とマツとの共生関係による偉大な働きや、菌根菌には様々な種類があり、まだまだわからないことがたくさんあること、また、興味深いトピックスとして、この菌根菌に感染した植物同士が、この菌根菌を通じて互いに会話をしている、つまり菌根菌に情報伝達の役割もあるらしいことなどの説明をされた。

 

 

2日目 弘前公園

主に実習を主体としたプログラムで実施された。

  • 弘前公園の松枯れの防除実態(弘前市都市環境部公園緑地課主査 橋場真紀子 氏/樹木医・松保護士)
  • サクラの病害虫の実態(弘前市都市環境部公園緑地課参事 小林勝氏/樹木医)
  • 松林の観察方法(被害木の見分け方)
  • 被害木の後食痕、産卵痕、脱出孔等の説明
  • 罹病検査のための材片採取の手順と方法
  • 小田式松脂滲出調査実習
  • マツ材線虫病診断キットの使用手順
  • 各メーカーの松枯れおよびナラ枯れ防除薬剤の商品説明と実演を見学
    松枯れ予防樹幹注入処理、土壌灌注処理、伐倒くん蒸処理、天敵微生物害虫防除剤(ボーベリア・バシアーナ菌)

 

講義の様子

講義の様子

弘前公園での解説

弘前公園での解説


材片採取の説明の様子

材片採取の説明の様子

天敵微生物害虫防除剤の施工の様子

天敵微生物害虫防除剤の施工の様子


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