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緑のリサイクル技術
3)施工事例
(2)九州大学の生物多様性保全ゾーン
新キャンパス用地の樹木移植
九州大学では新キャンパス計画立案に当たり、生物多様性保全ゾーンを設定し、ゾーン内の樹木移植等について、次のような試みを実施した。
新キャンパス用地の樹木移植等について、根株移植と木チップを用いた表土保全による法面緑化:約1400 本(盛り土法面Bl とB5の一部約2ha に対して100 u当たり約7 本)を実施する。
これは、盛り土法面の内、林床移植を適用しない部分について、シイ類、カシ類、クヌギ、ヤマモモなど萌芽性の強い樹種で萌芽力の強い時期にあたる小中径木を選んでその切り株を移植し、移植した樹木の間はできる限りもとの森林の表土で埋め戻して、木チップで表土の流亡と雑草の侵入を抑えるものである。
根株移植と木チップを用いた表土保全による法面緑化の利点として、萌芽力の強い樹種の根株だけを土木工事的手法で移植することにより、経費を抑え、活着率を高めるという利点があり、さらに萌芽が早い時期に草本に被圧されないところまで樹高を伸ばす性質を持つことから、下草刈り等の管理も通常のポット苗植栽に比して大きく軽減できる。
法面緑化で一般に行われる外来牧草種子の吹付けを行うと、自然性を損ねる上に樹林に遷移するまでに非常に長期間を要するし、より自然に配慮したつもりでこれにハギなどの木本種子を混入した種子吹付けを行っても、茂ったハギなどの低木類が自然散布された種子の生育を抑えてしまう場合が多く、法面が樹林化されるまでには同様に非常に長期間を要する。
根株移植は、成木の移植と比べれば樹林になるまでに時間を要するが、限られた経費で自然性の高い樹林を作ることができ、何より、この工法を採らなければ捨て去られる現地の樹木の遺伝子資源を有効に活かす工法でもある。
生物多様性保全ゾーン
農場ゾーン北地区とウエスト・ゾーンとに挟まれた保全緑地の沢地一帯を、新キャンパスにおける生物多様性保全の先導的役割を果たす「生物多様性保全ゾーン」として位置づける。ここでは、陸上植物及びそれに依存する動物の多様性、水生生物、土壌生物と菌類の多様性を保全し、里山生態系の復元と維持を図る。このゾーンは、狭義の自然保護区とは異なり、農耕を通じて利用されてきた里山の生態系を復元し、自然観察等を通じて、森林や野生生物について学生、教職員、市民が学習する場と機会を提供する。
引用文献 | 九州大学ホームページ:九州大学新キャンパス・マスタープラン2001, 2011.2.28更新, 2011.2.28参照 九州大学ホームページ, 新キャンパス計画専門委員会資料(緑地管理計画サブグループ):新キャンパス用地の樹木移植等について, 2011.2.28更新, 2011.2.28参照 |
(3)千葉圏央道の建設に伴う自然環境に配慮した施工・管理の試み
根株移植(根株植栽)
直接改変域に生育していたヤマボウシを法面緑化の材料として用いた例を紹介する。
現地では以下のような課題が認められた。
- この改変域では、平成15 年8 月時点で28個体のヤマボウシが確認され、同年10 月から11 月にはそれらヤマボウシを含む樹林を伐採する計画となっていた。そのため、与えられた短い期間で実行可能な保全対策を検討し、速やかに実行に移す必要があった。
- 移植(根株移植)をする場合、工事スケジュール等の関係で直ちに移植先を確保できない場合が多い。その場合、移植先が整備されるまでの間、別の場所に仮植えしておく必要があるが、今回の場合、仮植地は放棄水田しか確保できなかった。この場所は地下水位が極めて高く、そのまま植栽した場合、根腐れを起こす懸念があった。
これに対し、以下の保全対策を講じた。
- 10〜11月に行えるヤマボウシへの保全対策は、種子採取(種子からの育苗)、移植、根株移植しかなく、このうち同年9月に実施した事前調査では開花結実個体が全く認められなかった。そのため、全個体の形状寸法を測定した上で施工性等を考慮し、比較的大型の26個体を根株移植で、小型の2個体を移植することとした。根株移植(根株植栽)とは、樹木の幹を地表付近で切断し、幹の一部と地下の根系とを掘り取り、目的の植栽場所に移動して植え付ける手法であ切断面から萌芽枝により再生する(図8)。
- 仮植え地については、素掘りの水路を築いて水抜きをする。 るとともに、客土を施用して根腐れ対策を講じた(図9)。
図−9 ヤマボウシの仮植え地の整備図
引用文献 | 南雲賢一:千葉圏央道の建設に伴う自然環境に配慮した施工・管理の試み:(株)プレック研究所 |