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トピックス

樹木の大きさは、移植後の根の再生と頭頂部の成長に関係する

(出所:Tree size affects root regeneration and top growth after transplanting by Gary Watson, p.37〜40, February 1985 JOURNAL OF ARBORICULTURE)


 胸高直径4インチ(約10p)以上の樹木の移植後の生育が遅いということは、樹木生産者や造園業者にとって心配の種である。こうした樹木の成長が数年停滞するということもしばしば起こる。1〜3インチ(約2.5p〜7.5p)の樹木は、同時期に植えても、大きいものが移植前の元気を取り戻す前に追いつくか、あるいは追い越してしまうこともよくある。こうした問題があるにもかかわらず、景観デザインという点で即効性があるということで大きい規格の樹木を移植し続けているというのが現状である。

 移植してすぐの樹木はまず生育の衰える期間があるがその長さはまちまちである。移植で受けた打撃によって違うようであるが、大径木が経験する移植ショックの期間が長引く特別の理由について確定できた研究者も生産者も未だかつていない。様々な生理学的ストレスが絡み合っていることが多い。移植された樹木は、根系が劇的に減ってしまうことから、程度に差こそあれ水分ストレスが生じる(Watson & Himelick, 1982 a)。

 水分ストレスは光合成活動を減少させ(Kozlowski & Keller, 1966)、それによって、カルボヒドラーゼの貯えが減り、成長を抑える可能性がある。しかし最近の研究結果から、移植後、適切に水やりをすれば、カルボヒドラーゼの貯えレベルは下がらないということはわかっており(Watson & Himelock, 1982 b)、深刻なあるいは長引く水分ストレスの時にだけ減少が見られるのではないかということである。ストレスを抱えた樹木は、実に様々な病虫害の対象となり、その結果、元気がなくなったり、形が崩れたり、時には枯死してしまうことがある(Schoeneweiss, 1981)。}

 移植ショックの原因は複合的で移植樹木の根系をどの位詰めたかにもよる。移植が引き起こした根とシュート(発芽、若枝の伸長量)のアンバランスが移植ショックの第一原因で、他の生理学的及び病理学的問題は二次的要因のようである。樹木の根とシュートの自然なバランスが回復するまで、ある程度の移植ショックは存在することになる。

 本稿の意図するところは、移植後のストレスが続く期間と、移植時に失われた根系が元に戻るのに必要な時間との関係を示すことにある。

 樹木の規格を決めるに当って、従来の養樹習慣に従うとすれば、根鉢は、樹木の大小を問わず樹冠と釣合がとれているものである(Himelic, 1981)。樹木のサイズが大きくなるにつれて、もともとの根系も横に広がるということを覚えておくのは重要なことである。調和の取れた根系の割合云々は問わないにしても、成木からかなりの根の固まりと長さが失われることになり、新しい場所でこのような損失を取り返さなければならない。

 成木の根も養成木の根も同じ比率で成長するとしたら、成木の根系は再生するのにより時間がかかるはずである。次のモデルにおいてこの点を明らかにする。

ワトソン:根の再生と頂部の生育
移植後の年数
1年
2年
3年
4年
もとの根系に対する割合 
もとの寸法(100%)
9%
23%
41%
68%
根系の直径
45p
15p
22.5p
30p
37.5p
 
5年
7年
10年
13年
 
103%
192%
390%
674%
 
45p
60p
82.5p
105p
移植後の年数
1年
2年
3年
4年
もとの根系に対する割合
もとの寸法(100%)
5%
8%
12%
17%
根系の直径
112.5p
27.5p
35p
42.5p
50p
 
5年
7年
10年
13年
 
23%
34%
71%
109%
 
57.5p
72.5p
95p
117.5p

図1.移植時胸高直径4インチ:約10p(上段)と10インチ:約25p(下段)の移植樹木の根の生育と頂部の生育の関係。成木は何年間にも渡って非常にゆっくりと成長するが、養成木はわずか数年後に正常な成長率を取り戻す。そして、結果的に、成木と養成木は大きさ的にほぼ等しくなる。
図1は同時に移植された同品種の養成木(胸高直径約10p)と成木(胸高直径約25p)のモデル図であり、移植時の根系の減少及びその後の数年間における根系の再生の様子を表している。モデルは、根の発達に関係するいくつかの様相を盛り込んであり、こうしたことは、モデルを十分に理解する上で徹底的に検討されなければならないものである。

(1)緑陰樹の根の自然な分布状態は、非常に浅く広がっている状態である。大部分の土壌で、48インチ(約120p)より下に根が伸びることはほとんどない。細い根は表面から4〜12インチ(約10〜30p)の所に集中する。構造的な根あるいは下向する根はより深く浸透するが120p以上深く潜ることはまれである。直根は大部分の品種に不在かあっても稀である。実際の根の深さは、現場の土壌のタイプに大きく影響される。

(2)根の再生は、根鉢の周辺から側生しながら起こる。再生根の成長の度合いは移植可能なサイズの成木、養成木を問わずストレスがない場合、基本的に同じである。砕けやすく排水性のよい土壌で管理の行き届いた移植樹木の場合、鉢土の側面からの成長は年間18インチ(約45p)が平均である。前回の研究では、年平均12〜27インチ(約30〜67.5p)と報告されている。(Watson and Himelick , 1982b)。

(3)根の成長に連れて細かい根が、根系の側生伸長を通じて均一に土壌へ広がって行く。土壌条件が余程悪くない限り、根の生育しない土壌のエリアが大きく広がることは稀である。

 モデルは、根と樹木の地上部がバランスを崩している限り、樹木の勢いは低下しているという考え方に基づいている。自然のバランスが回復するまで根は樹木の上部が元気に生育するのに十分な水分と栄養となるミネラル分を供給することはできない。アンバランスの度合いが大きければ大きい程、成長は抑制される。モデルでは、4インチ(約10p)の樹木の根系は、移植前には直径約45フィート(約13.7m)のものであった。移植でこのバランスは大きく崩れ、根系はおよそ98%減少した可能性がある。(Watson and Himelick , 1982a)。

 新しい根は、根鉢外周の根の断根面付近に形成されたカルスから始まっている。移植後によく起こることである。根の一年間の平均伸長を18インチ(約45p)とすると、小さい規格の樹木では5年以内に根系が元に戻る計算になる。この間、樹冠はゆっくりと成長し続けるであろうから、もともとの根系バランスを取り戻すのには実際にもう少しかかるだろう。

 5年経過しても、10インチ(約25p)の樹木で、再生した根系はやっともともとの大きさの25%にしか満たないし、樹木は相変わらずストレスを抱えている。図1が示すように、10インチの樹木がもともとのバランスを取り戻すには、13年あるいはそれ以上の期間を要する。それだけの期間が過ぎてようやく、小さい規格の樹木の根系が、大きい規格の樹木の根系と同じ位の大きさになる。根系が寸法的にほぼ同じということは、上部もほぼ等しいということである。小さい規格の樹木は13年間の内の数年元気に生育し、その間大きい規格の樹木は、少なくともある程度のストレスを抱えていたのであるから、もともと4インチだった樹木が10インチの樹木を追い越してしまうこともあり得る。

 このモデルを通して、根の再生と移植ショックに関する考え方を理解し、事が起きるタイミングを予測する一助になればと思う。品種によって根の成長ペースも異なる。土壌条件も根の成長具合に大きく影響を及ぼす。元気な根の生育を推進することが、規格に関係なく移植ショックが続く期間とダメージを最小限に抑える最良の道である。

 適切な根の成長にとって土壌環境も好ましいものでなければならない。湿気、通気性、栄養レベルが最も重要な要素で好ましいものでなければならない。埋め戻しに使う土は水はけが悪く、固められたものなら、水はけと通気性をよくするために改良する必要がある。通常4〜6インチ(約10〜15p)の表土が、細かい根の生育に最も好ましい土壌条件を呈している。よく都市部に見られるかく乱された粘土質の土壌では特にそうである。
 
 もっと深い層になると、水浸しで酸欠状態ということがよくある。根鉢の周りの表土を改良することによって移植直後の数年間の根の再生をより早めることができる。そのひとつとして、穴は大きめに側面は浅い角度に傾斜させて掘るとよい。そうすることで、埋め戻しの土とその場の土が広い接触面を持つことになる。根鉢とその場の土の間の接触面を通して根が成長するのに困難があるとしたら、それは例外的状況と言える(Whitcomb,1979)。マルチングも、発根のための環境を更に向上させ、根の成長を促す。LitzowとPellet (1983)が、この件について雑誌を発行している。発根ホルモンによる処理も、初期の根の発生を促すのに有効である(Prager and Lumis , 1983 : Lumis , 1982)。

まとめ
 モデルは移植の過程で失われた根の再生に長い時間がかかるために、なぜ大型の移植樹木は、移植後何年間も成長が抑制されるのか、ということを説明している。適切な成長のためには地上部が根系とバランスを取っていなければならない。大きさは、根系の大きさに左右される。根系が減少したり制約を受けている場合は、幹と枝の生育も抑制される。

 移植された成木と養成木の再生する根系の伸長は、もともとの根鉢の大きさの相対的に小さな違いによってのみ異なるものであるから、根とシュートのバランスが維持されるなら、成木も養成木も地上部の成長は結局相似しているはずであるということになる。条件の悪い場所に移植された樹木は、適当な根とシュートのバランスと正常な勢いを取り戻すことはないものと思われる。

参考文献
Himelick, E.B. 1981. Tree and Shrub Transplanting Manual
  International Society of Arboriculture,Urbana,IL.
Kozlowski, T.T. and T.Keller. 1966. Food relations in woody plants. Bot. Rev. 32:293-382
Lumis, G.P. 1982. Stimulating root regeneration of landscapesized red oak with auxin root sprays J. Arboric. 8:12-13.
Prager,C.M. and G.P. Lumis. 1983. IBA and some IBA synergist increases of root
  regeneration of landscapesize and seedling trees. J. Arboric. 9:117-123.
Schoeneweiss, D.F. 1981. Infections diseases of trees associated with water and freezing
  stress J. Arboric.7:13-18.
Watson. G.W. and E.B. Himelick. 1982a. Root distribution of nursery trees and its
  relationship to transplanting success. J. Arboric.8:225-229
Watson. G.W. and E.B. Himelick. 1982b. Root regeneration of transplanted trees.
  J. Arboric.8:305-310.
Whitcomb. C.E. 1979. Factors affecting the establishment of urban trees.
  J. Arboric.5:217-219

執筆者:
ゲイリー・ワトソン
MSU-DOE植物研究所
ミシガン州立大学、East.Lansing, Michigan 48824



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